例えば。

どんなに精密にデッサンを描いたキャンバスも黒筆の一振りにはただ黒としか映らないように。否定とか拒絶とかいう類の言葉はそれ単独ですべてを打ち消してしまう力を備えているのに比べて、肯定や容認といった類の言葉は重ねるたびにその真偽が薄れていくようにある意味で自滅的な響きを備えている。


嫌いといえばそれは全否定して追随を許すことなく思考停止してしまってもそう大きな誤差が生まれる故もないが、好きという意思にはどこがだれがどのようにと補足することでより硬固なものに昇華させたいという欲望の働きからか、ただ言葉のとおりには心に染み入らないような風が吹く。


だからこそ人は難しい。


だからこそ人が好きで。


だからこそ人が怖い。